おちらと日記

古民家離れの宿「天保」「庄屋」を手掛けた職人さんたちの想い

「湯宿・草菴」の建設に関わる職人さんたちに、草菴の古民家離れの宿「天保」「庄屋」について各々の想いを寄せていただきました。
いつもは寡黙な職人さんたちですが、とても熱い想いをもって草菴に携わっていただいたことが、文章から伝わります。

荘厳な宿と鉄のあかり

金属立体造形工房 クラフトキャリア 石川 哲

田舎の田園風景の魅力のひとつに、昔ながらの「変わらない景色」というものがあります。もちろん昔の風景そのままというわけではないのですが、これはかつての「にっぽん」への時間旅行を擬似的に楽しむようなものではないでしょうか。

特に島根県はこのような意味で非常に魅力的な土地だと思っています。そしてこのような「時間の流れを感じる体験」ができる場所での制作において私が考えている事は「素材や技術によってそのお手伝いができれば」ということです。

今回作らせていただきました鉄製照明器具で心がけた事は、日本人にとって昔からなじみの深い素材である鉄の特色を前面に押し出すことによる「時間」の演出でした。

昔ながらの鍛冶仕事によって生まれるパーツ独特のアウトライン、表面仕上げは鉄の酸化皮膜(黒皮)や鉄さび色をそのままといたしました。技法的には昔ながらの手法を用いているのですが、形に関しては昔の照明器具の形をなぞることはいたしませんでした。

「古きもの」にも拘りながら、あくまで「新しきもの」を生み出したいというオーナーである内田さんの想いに対し、これが私なりに出した答えでした。

兎にも角にも、ムクの鉄を金槌で叩いて生じる表面の凹凸(ハンマートーン)、塗装にたよらない鉄本来の色彩、そしてなにより「ゆっくりと流れゆく時間」をお楽しみいただければ幸いです。

草菴に似合う洗面台とミラー

木工房高橋 高橋 光二

この度草菴様から洗面台とミラーの注文をいただきました。建物が古民家を移築したものなので建物に似合う出来るだけ大きな材料でボリュームのあるものをとの御要望をいただきました。

材料はオーナーから古材を提供していただき加工したのですが、これがなかなか大変でした。いただいた材料はアカガシの板とケヤキの柱。建物に使われていたものが役目を終え取り外されたものです。

ケヤキは普段から家具に使う材料ですが、アカガシはとても硬い木で加工が難しく、クセが強くて乾燥中に割れやすい木なので使う事は滅多にありません。木工の世界では硬さを比重で表しますが、量ってみるとこのアカガシは比重が1.1もありました。これは水に沈む木だということです。日本で産出する木材の中でもトップクラスの比重でした。

加工には大変苦労させられましたがこの木が生育し、伐採され、建物に使われ、またこうして再生され新しい建物の一部になろうとしている。そんなことを想い考えながら手を動かしカタチにしました。ちょうど作業は暑さも盛りの頃でこの夏の思い出となりました。

草菴様の建物は古民家です。古民家の良さを考えてみると、伝統としての確かさ、天然素材のあたたかさや親しさ、手仕事の健やかさといった事になろうかと思います。

このような古民家の良さが見直され意識されるのは残念ながら現在の生活からこれらの良さが失われつつあるからだと思われます。
古民家が見直されるようになってから久しいですが普段の暮らしはこれら良いものからますます遠ざかっていくように思います。

この古材で作った家具が草菴様の古民家達の一部となり溶け込みこれら良いものの仲間になれればと願っております。

杜に佇む草菴・おもてなしの庭づくり

(有)植富 安達 誠

太古の浪漫あふれる斐川の地で、ゆったりとしたおもてなしの宿の庭をつくるにあたり、オーナーと多くの時間を費やして、語り合いながらの作業となりました。

平成13年に癒しの森をつくり、日を追うごとに、木々も深々と緑を育みつつありました。
平成16年には飛騨から、栗の古材でレストラン棟が敷地内にそえられ、次第に庭も落ち着いた風情を醸しだすようになりました。
さらに平成20年には、こだわりの古民家が出現し、宿にいたるまでの路地には、まさに200年をゆうに経た京の町屋の古材、石材をあしらい町屋文化の象徴ともいえる佇まいを創作しました。

豊かな自然に恵まれたその地では、特別に意匠を凝らすことなく、ただあるがままの姿を、一木一草に込めました。

雪をかぶった木々の枝先にほんの僅かな春の訪れを見つける頃、まばゆいばかりの新緑に囲まれる頃、日に日に色づいていく紅葉に包まれる頃、その四季折々の時々を、いらしたお客様に感じていただけるよう、雑木で森をつくりました。


(有)植富:ホームページ http://www.uetomi.jp

草菴の宿泊棟・建設プロジェクト

(有)中村技建工業 高尾 良悦

最初に取り掛かった作業は、浴室の天井部、天井付近に設ける換気口。浴槽、浴室で使用するレンガを使い3段に組み合せ、内外の換気をするための作業からのスタートであった。どうして固定しようか?大変に手間のかかる作業であった。

次に、隣の客室との境になる上部の防火壁、防音壁、仕上げは鼠色の漆喰、これが内部壁のほとんどであった。
そして平行して進めていったのが、今回の左官工事のメインとも言える『外壁黒漆喰堅押え工法』と言われるものであった。

当初は、内部の壁よりも多少黒ければ良いとの認識でしかなかった私には、オーナーが言われる黒漆喰が作り出せるのか?きれいに鏝で押えて仕上げることが出来るのか?そして何よりも施工時期である左官作業の全般(特に漆喰仕上げ)にとっては7月~8月にかけての年間で最も気温、日射し共に上がって作業が難しい時期でもある。

30数年の経験の中でも初めてと言ってもいいことで当然自信などと言えるものが存在しないし、同業の先輩に相談したり、壁材メーカーに指導を受けたりしたものの、いずれもが現場での施工を保障できるものではないので、参考にさせていただく程度でしかなかった。

そして、黒色を出す顔料(色粉)2種類と水を、g単位で混ぜ合わせて一晩寝かせた物と、白い漆喰と練り合わせた物を試験的に塗って乾燥させては仕上がりの色具合を見る、その作業を何回となく繰り返して、やっと黒漆喰が練りあがった。

いよいよ外壁に塗っていく仕上げ行程なのだが前述の通り、今度は気温と日射しとの戦いであった。シート等の日射し養生、陽の傾き具合等の対応をし、30坪の外壁が仕上がったのはもう8月になる頃だった。私の当初の予想を上回る仕上がりになったのも事実である。

その後はトイレ、洗面等の壁は、朱色のべんがら漆喰仕上げ、ポーチ、玄関の土間は三和土風の漆喰仕上げと、すべてがこだわりの建物、左官仕上げになったことは言うまでもない。

ぜひ一度宿泊し、ご覧になっていただきたいと思います。
最後になりましたが、この貴重な体験をさせていただきましたオーナーをはじめ、各方面の方々にご指導ならびにご協力いただきましたことに改めてお礼を申し上げます。


古民家離れの宿「天保」「庄屋」詳細

天保(てんぽう)

寝室10畳 小間4畳
談話室(洋間)7畳分
テラス10畳分
半露天風呂(来待石)12畳分
玄関土間5畳分 お庭12畳分
玄関アプローチ5畳分
合計:約65畳分(110m²)

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庄屋(しょうや)

寝室10畳
談話室(洋間)11畳分
テラス9畳分
半露天風呂(アンティークレンガ)12畳分
玄関土間8畳分 お庭10畳分
玄関アプローチ6畳分
合計:約65畳分(110m²)

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コメント

  1. […] 重厚なシャンデリア。湯宿・草菴(ホームページ)「古民家離れの宿「天保」「庄屋」を手掛けた職人さんたちの想い」のページに石川も寄稿させていただいております→(こちら) […]

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